約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
女子同士仲が良い事は認識していたし、普段の業務に支障がないならクライアント先の社員と仲良くなる事は特に問題ではない。女子特有の恋愛トークに華が咲き、その際に友理香が自分の恋愛話をした事は容易に想像できる。
それなら愛梨は、友理香の気持ちを知っている筈だ。もちろん雪哉も友理香に向けられる感情を理解しているが、それに応えるつもりはないとその都度ちゃんと断っている。
だが愛梨はそれを知らない。自分の気持ちを認めたくない防衛反応に加えて、友理香の恋を応援しようとか、雪哉と友理香がお似合いだかとか考えているから『河上さんとどうこうとか、絶対にない』とはっきり宣言してきたのだろう。『絶対にない』と言われた雪哉のショックなど、知りもしないで。
その腕を掴んで、振り向かせる。そしてその瞳を覗き込んで、問いかける。愛梨の琴線に触れ、胸の奥の恋心にちゃんと届くよう、声の低さの中に誘い込むような色を含ませる。
「愛梨は今の俺がどれだけ必死なのか、ちゃんとわかってる?」
視線が合うと愛梨はびっくりしたように目を見開いていたが、すぐに視線を逸らしてまたそっぽを向いてしまう。
その態度は、彼氏に変に染められていないようにも、異性からのアプローチを綺麗にかわすように仕込まれたようにも感じられる。
愛梨はまだ、雪哉に落ちる気配がない。
更に踏み込もうと腕に力を込めたところで、下階に赴いていたエレベーターが戻って来た。ポーンと音がして開いた中には弘翔が乗っており、手には黄色と桃色のリボンラッピングが施された小さな袋が握られていた。
「愛梨、ギフトセットのヤツでいい? 一応まだバラのもあったけど…」
「弘翔」
雪哉の手を振り解いた愛梨が、弘翔の傍へ寄っていく。そしてそのままスーツの端を掴んで、彼の顔を見上げる。
「愛梨? 何、どうしたの?」
弘翔にくっついた愛梨は『もうおうちに帰りたい』と拗ねてしまった子供のようだ。人前で寄り添われた事に焦ったのか、弘翔が慌てたように愛梨の名前を呼ぶ。
(俺の目の前で、そんなにくっつかなくてもいいだろ…!)
その様子を見た雪哉の胸の中には、また酷い焦燥感が渦を巻く。