約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 愛梨には派遣元会社のルールがわからない。だから判断は雪哉に委ねるしかないと思っていたが、友理香も自分自身でしっかりと反省したらしい。落ち込んで項垂れた友理香が歳の近い妹のように思えて、なんだか可愛いと思ってしまう。

「でも雪哉に止められたの」
「それはそうだよ。だって友理香ちゃんがいなくなったら、うちの会社も困るもん」
「それもあるけど、折角庇ったのに処罰になったら、愛梨が気にするからって」
「へ……私?」
「自分だけ処分を受け入れて楽になっても、それで担当外れたら愛梨は絶対気にするからって。だから反省してるならその分は仕事で返してって言われちゃった」
「わぁ……手厳しいねぇ……」

 雪哉は愛梨に鋭い視線を向けることはあるが、基本的に他人には厳しくないし、今までは友理香の困った言動を強く咎める様子もなかった。その雪哉にしては、今回は随分厳格な判断をしたと思う。

 けれど雪哉の言い分は間違っていない。愛梨が気にするかどうかはともかく、仕事のミスを仕事で取り返すのは社会人の基本だ。ミスを愛嬌で取り返せるのは学生まで。

 とは言え、友理香自身が自分の過ちをしっかり理解しているなら、きっと大丈夫だろう。雪哉の信頼を取り戻せるかどうかは友理香の頑張りにかかっていて、愛梨には見守る事しか出来ない。それでも友理香の成長のサインを見つけた気がして、愛梨は『そっか』と安堵して頷いた。

 愛梨の様子を見て少しずつ元気を取り戻した友理香の瞳に、小さな煌めきが流れた。

「ね、愛梨。雪哉と幼馴染みってほんと?」

 いつもの様子に戻り始めた友理香の、思い切り核心を暴こうとする言葉に小さく動揺する。しっかり掴んでいたはずのミニトマトが箸から転がり落ちて、皿の中に戻っていった。

「あ、うん……昔、家がお向かい同士だったの」

 答えながら、友理香が何か知ってはいけないことまで知っているのではないかと、腋窩に妙な汗をかく。目を合わせられない愛梨を気にもせず、友理香が質問を重ねてきた。

「じゃあ雪哉が探してる人って、愛梨だよね?」
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