約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
でも弘翔といると、楽しいし安心できる。
だから自分は弘翔が好きなのだと再確認する。
「ドキドキする?」
「……えっ?」
自分の好みの男性像がより明確になった心地でひとりで頷いていると、友理香の言葉が愛梨の意表を突いた。
「一緒にいて楽しいなら、友達だって同じでしょ? でも恋してないと、ドキドキはしないよ?」
「……」
確かにドキドキはする。
雪哉はいつも心臓に悪いから。
けれどドキドキすると言うのなら、弘翔にだって。
する、でしょ……――?
「私、雪哉と一緒にいるとすごくドキドキするんだ。仕事だけの関係だってわかってるけど、名前を呼ばれると嬉しくなっちゃうの」
「……。」
そうだ。弘翔が名前を呼んでくれると嬉しい。一緒に出掛けるのも楽しい。この前初めてくっついて寝たけれど、すごく安心できた。朝までぐっすりで、直前にあった恥ずかしい失敗を意識することもないぐらいに。
(……?)
何か。
気付いていけないことに気付いてしまった気がする。友理香が掘った鉱脈が、温泉を掘り当ててしまったような。そんな。
「雪哉も同じだよ」
友理香に言われて、はっと意識が戻ってくる。湧き出た温泉の温度が高すぎたのか、また顔が熱くなっている気がしたが、思ったより表情には出ていなかったらしい。友理香は愛梨の内心には気付かなかった。
友理香を妹みたいだと感じたのは、社会人経験者として先輩だったからにすぎない。にこりと微笑んだ友理香は、恋愛経験者としては愛梨の数倍お姉さんだった。
「愛梨が傍にいると、雪哉はいつも楽しそうなの。この前のお昼休みも、通訳室で会った時も。愛梨が一緒にいるだけで雪哉の表情はいつもと全然違うんだ」
「そ、そうなんだ?」
「愛梨も、雪哉といると嬉しそうだよ?」
友理香の言い方に、表情筋が強張るのがわかった。上手く笑おうと思ったのに、今度はちっとも笑えていないことに自分でも気付いてしまう。
だからだろうか。厳重に蓋をして閉じ込めた筈の『約束』が、好奇心旺盛な友理香の探索によって発見されてしまったような心地を味わう。