約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
それどころか、中途半端に投げた球はあっさりと打ち返されてしまう。眼前に迫った言葉を上手く受け止めきれずに、思わず変な声が出た。
裏返った声を聞いてふと足を止めた雪哉が、じっと愛梨の顔を見つめてきた。昔は同じ目線だったのに、今は雪哉が少し下げなければならない視線を、そっと合わせて。
「たぶん褒められてるんだろうけど、愛梨が好きになってくれないと意味ないから」
「……あ、えと……」
「愛梨の彼氏は、細身だけど筋肉質だからな。俺ももう少し筋肉付けなきゃ、愛梨の好みにはならない?」
「えっ、いや、ユキはそのままでいいと思うよ?」
むしろ雪哉はそのままの方がいいと思う。整った顔立ちにスタイルの良さを兼ね備えているのだから、無理に余計な要素を入れる必要はない。
(っていうか、もう彼氏じゃないんだけど……)
雪哉の顔を正面から眺めながら、1度聞き逃した言葉を思い出す。
玲子には伝えたが、雪哉にはまだ弘翔と別れたことを伝えていない。何も知らない雪哉は当り前のように『愛梨の彼氏』と口にしたが、本当は弘翔とはもう付き合っていない。だから雪哉の認識は、間違っている。
けれど鋭い視線に熱い感情を乗せて距離を詰めてくる雪哉に、ありのままの状況を伝えてもいいのかとつい考えてしまう。雪哉に好かれている事は知っている。そしてその想いの『甘さ』と『激しさ』も知っている。
「愛梨、俺に何か報告する事はない?」
「…!?」
まるで心の中を読まれたのではないのかと思うほどの絶妙なタイミングで、そんな事を問い掛けられた。突然の変化球に思わず固まった愛梨の顔を見て、雪哉が首を傾げた。