約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
弘翔と別れた事は、雪哉には話していない。雪哉は何も知らないはずなのに『報告』をせがまれてしまう。
「え…。ない、と思うけど…?」
それなら、偶然なのだろうか?
と思いつつ、そろりと知らないフリをする。そうでもしなければ、愛梨のすぐ後ろにある玄関ドアの内側にそのまま雪哉が押し入って来そうな気配がしたから。
「本当に?」
「う、うん」
自分がまた嘘を付いてる事に気付く。
元々人を騙したり傷付けたりするような悪質な嘘をつく人は嫌いだと思っていたのに、その『嫌いな人』に自分が成り下がっている事実に小さく自己嫌悪する。
心の中を覗き込まれないように雪哉に背を向けると、ポケットから鍵を取り出して、ドアの鍵穴に差し込む。1人分の傘に2人で入ったから、雪哉の肩が濡れてしまっている。家の中に上げるわけにはいかないけれど、タオルを貸す事ぐらいは出来る。
だからタオルを渡して、すぐに帰ってもらおう。これ以上雪哉の傍で考え事をしていても、自分の気持ちを理解するどころかどんどん迷走してしまいそうだから。
開錠した扉を引くと、自分で想定していたよりも軽く扉が開く。フワリと滑った扉から手が離れると、背後に立っていた雪哉に、急に身体を押された。
「ちょ、ユキ…!?」
驚いて顔を上げると、至近距離で雪哉と目が合う。びっくりして後退した身体は雪哉の手のひらにグッと掴まれた。さらに身体を押され、玄関の中まで入ったところで、今度は思い切り抱き寄せられる。雪哉が後ろ手に閉めた扉の向こうで、カシャン、パキッと金属がぶつかる高い音がした。
それはきっと傘が床に落ちて壊れた音――