約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
(でも……どういう事、って言われても…)
その質問に『幼馴染みなんです』と素直に口にしても、良い事が起きないのはわかる。とびきり嫌な顔をされるか、逆に色々聞き出そうと纏わり付かれそう。けれど一緒に帰っているのを見られていた事を考えると、しらばくれるのも逆に怪しまれそう。
咄嗟に良い切り返しが思いつかない。2人の女性社員に睨まれて無言の圧力に負けた愛梨の口から『うぅ』と変な呻き声が出た。
「こらこら、君たち経理部でしょ。階も違うのに朝から押しかけないの」
困り果てていると、見かねた崎本課長が助け船を出してくれた。その言葉に、愛梨も『あ、経理の人なんだ』と気が付く。言われてみれば、出張費の領収書を精算しに行ったときに彼女たちを見た事があるような気がしてきた。
「崎本課長~」
彼女達は審問に水を差されて崎本課長に泣きつくような声を漏らしたが、上手くあしらわれてしまい、結局渋々と自分たちの部署へ戻っていった。
「ありがとうございます、課長」
愛梨がお礼を言うと、崎本課長がにっこりと笑顔を作った。そしてその笑顔のまま、上司の首は45度右側に傾く。
「愛梨。もしかして泉と別れたの?」
単刀直入に切り込んできた上司に、一瞬『う』と言葉を詰まらせる。
相手が変わっただけで、結局今日は問い質される運勢らしい。接点のない女性社員よりは幾分か受け答えしやすいけれど、愛梨のデスクの周囲の人は既に全員出社しており、愛梨と崎本課長のやりとりに聞き耳を立てている。
ヘルプが欲しくてちらりと隣のシマを見ても、やはりまだ弘翔の姿は見当たらなかった。
「えっと……まぁ……」
「いいんじゃない? 泉より河上さんの方がお似合いだよ」
弘翔との関係が変化した事を認めると、崎本課長には満足げに頷かれてしまった。けど、弘翔と別れたとは言ったけれど、雪哉とどうにかなったなんて一言も言っていないのに。
愛梨の向かいのデスクで作業をしていた遠藤先輩と前田先輩が、崎本課長の軽口に眉を寄せる。
「課長、ヒドイ…」
「ひどくない」
そっと弘翔の擁護をしてくれた前田先輩に対して、崎本課長が突然ツンとそっぽを向いて頬を膨らませる。自分の意見が絶対に正しいとでも言うような、子供じみた態度で。