約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「弘翔、ごめん。ちょっと今日は、やめておこうかな……」
一緒にご飯を食べに行こうと約束をしていたが、今の愛梨にはまともな食事が喉を通る気がしなかった。少し俯きながら食事のキャンセルを言葉にすると、弘翔が心配そうに顔を覗き込んできた。
「どした? 具合悪いのか?」
「う…ん。…夏バテ、かなぁ」
確かにあつい。残暑の蒸し暑さもあるが、顔も身体も不思議なほどに火照っている。
体調の変化を誤魔化すために俯いていると、弘翔は本当に夏バテで食欲がないと判断したらしい。
「わかったよ。その代わり週末は約束だからな」
「うん」
弘翔は口では納得したようにそう言ったが、顔を見ると少し名残惜しそうだった。人目を気にしながらも愛梨の頭を撫でるので、愛梨もちゃんと笑顔を作った。
笑わなければ、心配して顔を覗き込んだ弘翔が、更に心配してしまいそうだったから。
「じゃあ、また明日な。とりあえず、家着いたら連絡して」
「ん。わかった」
少し不安気ながらも、弘翔は愛梨の笑顔を見るとそっと離れた。
弘翔とは駅は同じだが、家の方向が会社を挟んで真逆なので、利用するホームが違う。反対側の改札への流れに乗った弘翔が最後にもう1度手を上げたので、愛梨も弘翔が見て分かるように頷いた。
見えなくなる最後の瞬間まで自分の気持ちを意思表示をするところも、弘翔の可愛いところだ。
(……ユキ…)
だが弘翔の姿が見えなくなった瞬間に、別の事を考え出してしまう。
決して恋人である弘翔を雑に扱っている訳ではない。そうではなく、愛梨にとって人生を揺るがす程の重大な事件が起きてしまっただけだ。