約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「だって愛梨は、河上さんといる時の笑顔の方が可愛いもの」
「えっ……」
……えぇ!? また言われた!
崎本課長の前で雪哉と会話をしたのはたった1回だけ。雪哉への資料の配達を依頼された時に、本人不在の状態で雪哉の話題になったのが1回。たったそれだけで、崎本課長には表情の違いが分かるのだろうか。
友理香と弘翔にも同じ事を言われたので、これで3人目。愛梨自身は感情を表出しているつもりはない。雪哉は表情だけじゃなく言葉や態度でも感情表現をするのでかなりわかりやすいと思っていたが、それよりも自分の方が他人から見てわかりやすいなんて。
「そ、そんなに違いますか?」
「うん。乙女の表情してた」
「「「おとめのかお!」」」
崎本課長の言葉を思わずそのまま反復する。そんな愛梨の声は、前田先輩と遠藤先輩の声ともぴたりと重なり一致した。
3人で同じワードを呟くと、崎本課長が男性2人の顔をじろりと睨んだ。
「前田と遠藤は、少し乙女心を学びなさい」
「ええ?」
「俺たちっすか?」
急に飛び火してきた事に驚いた2人の先輩の声がひっくり返る。崎本課長は怪訝な顔をした部下達を鼻で笑うと、わざとらしく肩を竦めてみせた。
「まず愛梨を女性扱い出来ない時点で、君たちは失格よ。髪が短いって見た目だけで判断するところから直しなさい」
「え、いや、それは好みの問題で…」
「遠藤は昨日提出した資料の管理ナンバーミスも直しなさい」
「あ、それはすぐやります。すいません」
崎本課長は、男性に厳しい。もちろん本気で厳しく叱り付けたりするわけではないが、まだ業務も始まっていない時間なのに、流れに乗じて遠藤先輩のミスを指摘する態度は、やはりやや冷たい。
先輩が唇を尖らせる様子を見届けた崎本課長は、愛梨に笑顔で向き直る。
「まぁ、ダメなら泉に戻せばいいと思うわ」
「課長、ヒドイ……」
「ひどくない。イケメンは正義よ」
確かに雪哉の容姿は優れているとは思うが、性格も加味するなら弘翔の方が優しくて好ましい。個人的にはそう思っているのに、男性には厳しいはずの崎本課長までもが雪哉に味方するとは夢にも思っておらず。
ユキ。うちの会社の女性陣総崩れなんですけど、どうしてくれるんですか。