約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
雪哉とはメッセージのやり取りばかりで、1度も電話をしたことがない。通話には変な緊張感があるから、出来ればこのままメッセージのみで済ませたかった。けれど今まで普通にやり取りしていたのに、通話を無視するのも不自然だ。
「は、はい」
仕方がなく受話してスマートフォンを耳の横に当てると、少し間を置いた雪哉が『愛梨』と声をかけてきた。名前を呼ばれただけなのに、思わず身体に力が入りその場に直立不動になってしまう。
『文字打つの面倒だから、電話にさせてもらった』
雪哉が急に電話をかけてきた理由を告げてくる。愛梨が緊張した声で相槌を打つと、スマートフォンのスピーカーから微かに笑った雪哉の声が聞こえた。
『さっきの話だけど、別に愛梨が謝ることない。それに誤解じゃないから』
「えっ……いや、誤解でしょ……?」
『俺が愛梨を好きなのは本当の事だ。だから誤解じゃないし、俺は困らない』
「……」
『あぁ、でも愛梨は困るか。彼氏に誤解される?』
「えっ、いや……それは別に、大丈夫だけど……」
恋人じゃなくなってしまった弘翔には、もう誤解などされない。一緒に帰っている姿を見られても、弘翔が拗ねることもない。答えながら、少しだけ耳からスマートフォンを離す。今はそれよりも。
(耳がくすぐったい……)
雪哉が至近距離で話しているように感じて、耳の裏から背中の中心がざわつくようにくすぐったい。雪哉は普通に話しているだけなのに、昨日の恥ずかしいキスを思い出してしまって、全身に火がついたように身体がぽかぽかと火照る。
(なんで出ちゃったんだろ)
電話が掛かってきたので、思わず出てしまった。けれどこんなにくすぐったい心地を味わうと知っていたらなら『今は通話は出来ない』と適当な理由をつけてメッセージでのやり取りを継続したのに。