約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
『愛梨。俺に何か言う事ない?』
雪哉の声の近さに戸惑いを感じていると、そんな質問を投げられた。昨日と同じ事を問いかけられても、ある1点を除けば他に思い当たる節などない。誰も見ていない部屋の中で1人首を傾げる。
「え? ない…と思うけど……?」
『本当?』
念を押すように確認されてしまう。けれど思考を巡らせても、雪哉に報告するような連絡事項はやっぱり思い浮かばない。
「逆に何かある?」
『ある。すごい大事な話。俺の耳に入れておきたいっていうから、その事だと思ったのに』
「……えぇ?」
『俺は愛梨の口からちゃんと聞きたいんだけど』
「ユキ…? よくわかんないよ」
何か聞きたい事があるなら、はっきりそう言ってくれればいい。答えられる範囲では答えるつもりだし、嘘や偽りを言うつもりもない。
けれどいくら待ってもスマートフォン越しにお互いの沈黙が続くだけで、雪哉からの要望は聞き出せない。
「えっと。私の用件それだけだから、切ってもいい?」
連絡した用件は済んだ。通話終了の承諾を得ようと訊ねると、雪哉に『うーん』と困ったような不満そうな声を漏らされてしまう。
やっぱり何か言いたいことがあるのかな?と思っていると、雪哉が声がまたひどく甘い猫なで声を囁いた。
『好きだよ、愛梨。――俺の方が、愛梨のこと好きだから』
「~~~っ!!」
『おやすみ』
深刻な話があるかのように引き延ばしてみせて、結局口にする言葉は愛梨を口説くための台詞。最後に就寝前の挨拶をさらりと添えて、何事もなかったように電話を切った雪哉が、怖い。
「もぉ!! ゾンビよりユキの方が心臓に悪い!!」
思わずスマートフォンをベッドの上に叩きつけながら、叫んでしまう。
雪哉がわざとに声のトーンを落とすときは、いつも危険な気配がする。今日は本人がそこにいない電話越しでも同じ状態になることが立証されてしまった。