約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「楽しそうだね」
愛梨がほっとしていると、後ろから声を掛けられた。驚いて振り返ると、現在『安心』からもっとも遠い位置にいる幼馴染みと目が合う。
「ぎゃっ」
「そんなお化けに遭遇したような声出さないの」
雪哉に苦笑いされて、慌てて口を押さえる。食堂のトレーを手にした雪哉が弘翔の方へ向き直った。
「ここ、いいですか?」
「どうぞ。俺はもう戻るので」
「ええっ! 弘翔!?」
立ち上がった弘翔につい慌てた声が出てしまう。折角弘翔がいつも通りに接してくれているのに、雪哉が出現してしまっては弘翔が気まずいと感じるのも仕方がない。
確かに弘翔はもう食事を終えていた。愛梨には到底食べられそうもない大容量のA定食を綺麗に平らげても、愛梨の仕事の愚痴を聞くために、同じテーブルにいてくれていただけで。そして未だ食事中の愛梨の傍に、これから食事を摂るらしい雪哉が近付いてきたら、弘翔が席を立って離れていってしまうのも、致し方ない。
(2人きりにしないで…!)
と思ったが、そんな状況ではない事も理解している。愛梨は『じゃあな』と寂しそうに笑った弘翔に追い縋ることなどできない。隣に腰掛けた雪哉が満足したように鼻を鳴らしたのを聞いて、愛梨も弘翔を引き留めることは諦めた。
「……今日はB定食にしたんだ?」
「うん。やっぱりこの量ぐらいで丁度いいな」
仕方がないので話しかけると、雪哉が嬉しそうに微笑む。そうして笑顔を向けられると、愛梨もまたドキドキとしてしまう。
愛梨は昨日、雪哉への『恋心』を認識した。やっぱり雪哉が好きだと、気付いてしまった。
けれどまだ、それだけ。愛梨はまだ自分の気持ちや今の状況とちゃんと向き合わなければいけなくて、乗り越えなくてはいけない課題がたくさんある。