約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
(…どうしよう……)
1か月前、15年間大事にしてきた約束を忘れる事を決意した。
淡い思い出を綺麗な箱に封印して、厳重に鍵をかけた。そんな忘れたはずの『約束』が、ガタガタ、ゴトゴトと音を立てて騒ぎ出す。
(どうして…)
どうして雪哉は日本にいるのだろう。
答えは簡単。アメリカから帰って来ただけだ。
どうして雪哉は愛梨の勤める会社にいたのだろう。
その答えも簡単。さっき弘翔が教えてくれた。それが雪哉の仕事だからだ。
愛梨の勤める株式会社SUI-LENは、自社製品を海外向けに売り出すプロジェクトを本格的に始動し始めた。
しかしターゲットにしている諸外国のマーケットやバイヤーとコミュニケーションを取ったり、ビジネスとして通用するほどの語学力を持つ人間が、社内にほとんどいない。
だから語学に堪能な通訳者や翻訳家を派遣してもらい、ビジネスが軌道に乗るまでその道のプロにコミュニケーション面をサポートしてもらうのだろう。それが偶然、本当にたまたま、雪哉だっただけだ。
「…はぁ……」
日本に帰ってきているなら、教えてくれればよかったのに。通訳の仕事をしている事だって、知らなかった。
けれどきっと、伝える術もなかったのだろうと思い至る。それは愛梨も同じことだから。雪哉が愛梨を探し出せなかったのなら、愛梨だって雪哉を探せない筈だ。
あるいは雪哉には、愛梨を探す気などなかったのかもしれない。