約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 これまでの2度の口付けとは異なる優しい触れ合いを感じ、そのままそっと目を閉じる。力を抜くと、背もたれにしていたベッドがギギッと小さな音を立てた。重なった唇から熱が伝わると、15年前の小さなキスを思い出す。

 まるであの頃に戻ったような。
 純粋で、健気で、可愛らしいキス。

「ちょ、ちょっと、待って!」

 15年前の出来事を思い出していた愛梨のルームウェアの裾から、成長した雪哉の長い指先がするりと入り込んできて、急に現実に引き戻された。可愛かった雪哉と素直だった愛梨の幻が消え、声に驚いた顔をしている雪哉と目が合う。

「や、やだよ……?」

 雪哉の肩に手をついて身体を離し、反対の手で口元を覆いながら拒否の言葉を紡ぐ。何が『嫌』なのか察した雪哉が、少し遅れて呆れた顔をした。

「愛梨、それ本気で言ってる?」
「……え…、えっと……」

 雪哉が何を言いたいのか、この先何をしようとしているのか、いくら恋愛経験に乏しい愛梨だって流石にわかる。わかるからこそ、更に詰め寄ってくる雪哉の事はここで止めておかなければいけない。

「俺は今すぐ愛梨としたい。これ以上待てる気がしないし、待つつもりもない」
「えっ、いや、でも……。私………経験ない、から、その……」

 もにょもにょと口籠って徐々に声が小さくなった末の『経験がない』。雪哉は言葉の意味をすぐには理解出来ず、そのままピタリと動きを止めてしまった。そしてかなりの時間を費やして、愛梨が口にした言葉を吟味したらしい。

「いや、彼氏としたことあるだろ。何で俺が相手だとダメ?」

 眉間を押さえながら困惑と苛立ちの言葉を発した雪哉に、愛梨の方が狼狽えてしまう。嘘をついたわけではない。誤魔化そうとしたわけでもない。愛梨は本当に、雪哉が望む『この先』がわからないのだ。

「愛梨、彼氏と何年付き合ってたの? 何もないとか流石に嘘だってわか……」
「さ、3か月……」

 ささやかな抵抗を塗り替えようとしていた雪哉に、ぼそりと呟く。

 8月末の玲子の結婚式の帰りに、弘翔に告白されて付き合い出した。その1か月後に雪哉と会社のエレベーターで遭遇してから、約2か月が経過している。だからおおよそ、3か月。

「3か月……? たったの?」
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