約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
雪哉は愛梨の言葉を信じてくれないらしい。全く納得していない顔でじっと瞳を見つめてくる雪哉に、愛梨も思わず黙り込んでしまう。
「泉さんと付き合う前とか、大学の時の彼氏は?」
「そ、そんな人いないよ」
「……いない? なんで?」
「えっ、だって……いつかユキが迎えに来てくれるんだ、って思ってたから……。その、今まで彼氏が欲しいと思ったことも、なくて……」
しどろもどろに説明しながら、気まずい心地を味わう。愛梨は実家で彼氏がいる理由を雪哉に訊ねられ、それなりの恋愛経験があるように語ってしまっていた。実はそれがただの見栄でした、と自分の口から説明するのは中々に恥ずかしい。
愛梨の様子と状況を再考し、雪哉はようやく本当の話だと信じてくれたようだ。黙って何かを考え込んでいる雪哉の顔を恐る恐る見上げる。
「………重い?」
「そんな訳ないだろ。ただ……無理させない自信がなくなってきた」
雪哉が口元を押さえながら目を逸らしてしまう。無理、ということは……やっぱり痛いんだ。それなら今日じゃなくて、もう少し時間を空けてからにして欲しい。雪哉は経験豊富かもしれないが、愛梨には心の準備が必要だから……
「まぁ、俺は恋人なんていたことないから、重さに関しては愛梨以上だろうけど」
「えっ……?」
雪哉の何気ない呟きに、驚きの声が出る。
確かに『昔も今も愛梨だけ』と語る目が嘘をついているとは思っていないが、雪哉が健全な男子なら15年の間に恋人がいた期間ぐらいあっただろうな、と勝手に思っていた。『迎えに来る』と言ってはくれたが、それまでの間に1度も恋人を作らないとも、誰の事も好きにならないとも言っていなかったから。
思わぬ告白に困惑した愛梨の顔を、雪哉がそっと覗き込んでくる。
「俺は愛梨以外の人に『好き』なんて言った事ない。でも愛梨は、俺以外の人に『好き』って言った事あるんだもんな」
ずるいな、と耳元で囁かれる。突然の刺激に驚く前に、全身の皮膚表面のすべてに鳥肌が立ったように痺れて、
「んん…!」
と声が震えてしまった。思わず閉じた瞳をゆっくり開くと、雪哉の指先が愛梨の唇を優しく撫でてきた。
「それに愛梨以外とキスしたことない」
「!? ……いや、それは絶対嘘でしょ」
「何で?」
「だってユキ、すごいキス上手…」