約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
(ユキ、すごい格好良くなってたな…)
ふと、雪哉の驚いた顔を思い出す。
昔から顔立ちは整っていた。中学生になった頃は、学年で1番格好いい男子に雪哉の名前を挙げる友達も多かった。
雪哉とはほんの数秒目が合っただけだが、今はその『格好いい』に磨きがかかって、更に洗練されていたように感じた。
(ユキは、あの約束……)
懐かしい記憶に思考を引っ張られる。綺麗な箱に封印して、厳重に鍵をかけたはずの『約束』がまた騒ぎ出す。
(……ううん、だめ…)
先程、どうして雪哉は自分の事を探さなかったのだろう、と思ってしまった。
けれどよく考えたら、仮に探されていたとしても愛梨の方が困っていたかもしれない。愛梨と雪哉は、もうかつての幼馴染み以上の関係にはなれない。愛梨には今、大切な恋人がいるから。
(絶対に、開けたらだめ)
わかっている。
もう、どうしようもないぐらい。
なのに、綺麗な装飾を施して美しく着飾り、厳重に鍵をかけた約束の小箱が、外に出たいと暴れて動き始めている。開けたところで何が変わるわけでもない。むしろ弘翔の事を考えると、変えてはいけないのに。
ぎゅっと目を閉じ、思考を振り払う。
『愛梨。俺、絶対に愛梨を迎えにくるから。待ってて』
目を閉じて視覚を遮った所為で、かえって聴覚が研ぎ澄まされたのか。
小箱のわずかな鍵穴から、真剣で無垢な中学1年生の雪哉の声が聞こえた気がした。