約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

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 扉が閉まるパタンという音が聞こえた気がして、浅い眠りからふっと意識が浮上する。うっすらと目を開けると、そこは自分のベッドの上だった。仄暗い室内で視線を動かすと、扉を閉めた人影がベッドの傍に近付いてきた。

「……ユキ…?」
「あぁ、愛梨。起きた?」

 声を発すると、雪哉も愛梨の目覚めに気付いたらしい。パチ、と音がしてベッドの傍にあったスタンドライトにオレンジ色が灯ると、雪哉がそっと顔を覗き込んできた。

「身体辛い?」
「え、いや……大丈夫、だけど」

 体調を確認されてぼんやりと答える。手を動かすと一応布団が掛けられているが、その下は何も身につけていない状態だと気付く。

 そこでようやく自分が置かれている状況を思い出した。自分のベッドに裸で入ったことなどあるはずもなく奇妙な羞恥心を感じたが、雪哉が

「恥ずかしい?」

 と笑いながら耳元に問いかけてくるので、急激に先程の体験を思い出して一気に覚醒した。

 雪哉との行為の最初から最後までを映像付きで高速再生した愛梨は、ぼんっと発火した顔を両手で慌てて包み込む。

(ユキは恥ずかしくないの……?)

 愛梨は顔から火が出そうなほど恥ずかしかったのに。あんなに近くで雪哉の体温と香りを感じて、本当の意味では知らなかった雪哉の『15年間』をまざまざと教え込まれて、もういっぱいいっぱいだったのに。しかも雪哉も、苦しそうな顔までしてたのに。

 普通に立って歩いてる。愛梨は……多分、今はまだ立てないと思うのに。

「あれ? ユキ、服が違う…?」

 ベッドに腰掛けて顔を覗き込んでくる雪哉の服装が記憶と異なる。確か先程までは裸で、その前まではスーツを着ていた筈なのに、今は見たことがない薄手のロングシャツとスウェットを身に着けている。

「ああ、勝手に鍵借りてごめん。1回、着替え取りに家に帰ったから」

 あっけらかんと言う雪哉に驚きはしたものの、結局『はぁ』と気の抜けた返事をする。どうやら愛梨が眠っている間に、この部屋の鍵を施錠して一旦帰宅し、着替えて必要なものを手にし、またこの部屋に戻って来たようだ。言われて時刻を確認すると丁度日付を跨いだところ。愛梨が眠っていたのは2時間程らしい。

「そのまま帰ったらよかったのに……」

 もう週末だし、雪哉も疲れているはずだ。新聞受けから中に鍵を入れて、メッセージでも残して置いてくれればそれでよかったのに。なんて考えていると、雪哉の指先が愛梨の頬をむにっと摘まみ上げた。
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