約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 雪哉がちょっと困った顔をしている。その隣にいた雪哉の父と目が合うと『久しぶりだね、愛梨ちゃん』とにこにこ笑われた。

 昔はいつも絵の具にまみれていた印象の雪哉の父が、お洒落なシャツ姿に上品なコートを身に着けているのもまた珍しいと思ってしまう。彼は肉体労働者ではないので、男性にしてはしなやかな印象がある。外見だけなら雪哉は間違いなく父親似だったが、自由度で言ったら母親に似ていると思う。テンションの高さの差はあれど。

「で? 雪、プロポーズはしたの?」
「えっ…?」
「まだだよ。ていうか、俺より先に言うのやめてくれる?」

 その自由でテンション高めの発言に、愛梨の方が思わず声を失う。自由過ぎる母の発言にいよいよこめかみを抑えて頭を抱えた雪哉だったが、それでもちゃんと返答はしていた。

「なによ~。ぼんやりしてたら愛梨ちゃんどこかの誰かに取られちゃうわよ。こんなに可愛いんだから」
「それは十分わかってるから」

 ハァと溜息をついた雪哉と、頬を膨らませる母。それを見て笑う父。何だかんだで楽しそうな親子3人の様子を眺めていると、愛梨も昔を思い出して少し楽しい気持ちになった。

 でも今……結構、聞き捨てならない事言ったよね?





 雪哉の両親と4人で和食のコース料理を食べながら、アメリカに行ってからの河上家の話を色々と教えてもらった。それと同じぐらいに愛梨の様子も訊ねられ、15年間の出来事を話すと雪哉の両親も愉快そうに笑ってくれた。

 夜の便でアメリカに戻ると言う2人を、先程と同じ品川駅で見送る。

「愛梨ちゃん。雪、わがままで頑固だから大変だと思うけど、よろしく頼むな」

 9割以上は雪哉の母が喋っていたが、最後の言葉は雪哉の父の言葉だった。あわあわとしながら『はい』と返事をすると、2人はお土産を抱えて手を振りながらエスカレーターの奥に消えていった。
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