約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「ほんとにハリケーンみたいだった」
2人が見えなくなった頃にぼそりと呟くと、隣にいた雪哉が呆れたように頷いた。
「母さんは日本の窮屈な田舎暮らしから解放されたら、更に元気になった気がするな」
田舎なりに住み心地は悪くない土地だったが、雪哉の父と母には少しだけ物足りない世界だったようだ。小さな楽園から飛び出した今の2人は、愛梨の記憶の中よりも活き活きと輝いているように思える。
それでもあの土地は愛梨と雪哉が幼少期を過ごし、思い出がたくさん詰まった場所だ。そのうち2人で訪れてみたいな、と思いながら雪哉の顔を見上げる。蛍光灯の灯りに照らされる成長した雪哉の横顔は、やはりまだ見慣れない。
「ユキ……手つないでもいい?」
「どうぞ」
ちょっと照れながら問いかけると、雪哉が手のひらを上にして左手を差し出す。その手に自分の右手を重ねると、突然ぐいっと引っ張られた。雪哉がそのまま手の甲に小さく口付けるので、愛梨はまた吃驚してしまう。
「もー! 普通でいいの!」
手に口付けるのは敬愛の証。まるでお姫様に誓いを立てる王子様のようなキスに頬を膨らませて抗議すると、雪哉が愉快そうにくすくすと笑い出した。
「今日は俺の家でいい?」
当然のようにこの後の予定を誘導されたが、いつもの事なので素直に頷く。優柔不断な愛梨を導いてくれるのは弘翔と同じだが、雪哉はかなり強引だ。とはいえ愛梨が嫌がるような事はしないし、意見はちゃんと聞いてくれる。
「少し散歩して帰ろうか」
『普通』に手を繋ぎ直した雪哉の指を握り返す。そして嬉しそうに手を引く雪哉の横顔を眺めながら、次の目的地に続くホームへと歩き出した。