約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
番外編① ヒョウとライオンの答え合わせ
成程。友理香から『月末の食堂は遅い時間ほど混む』と聞いていたが、本当だった。既に13時を回っている今なら空いているだろうと高を括っていたのに、むしろいつもより人が多いぐらいだ。
混雑する食堂の中で、何処かに座る場所はないかと視線を動かす。あいにく雪哉はこの会社の正社員ではないため、知り合いらしい知り合いもいないし、相席できるような人もいない。
困り果てているところで、とある人物と目が合った。
泉、弘翔。
彼は2人掛けテーブルに腰を下ろし、遠目から見てもわかるほどの山盛りのA定食を食べるため、右手に箸を持ったままこちらをじっと見つめていた。
「……」
時間にして1~2秒、視線を合わせる。遠くから雪哉を見つめる彼はいま何を考えているのか。そんな思惑を始めた瞬間、弘翔が突然左手をあげて手招きしてきた。
――ここに来い、という意味だ。
一瞬、迷う。彼は雪哉の恋人である愛梨の『元恋人』だ。愛梨とちゃんと付き合うようになってから弘翔と面と向かって接した事はない。変に近付けば何か嫌味を言われるか、最悪殴られるかもしれない、と思う。
だがよく考えればここは会社の社員食堂だ。雪哉は派遣されている立場だが、彼にしてみればここが自分の職場なわけで、それならいきなり殴られることはないかと思い至る。
無視するという選択肢もあったが、どうせ他に座る場所もない。それなら腹を括って嫌味の1つでも聞くべきかと思う。どうせ自分は『勝った』側だから、何を言われても聞き流せる自信がある。
「お疲れさまです。いいんですか、ここ」
「どーぞ?」
近付いて声を掛けると、弘翔が目線で向かいの席をすすめてきた。トレーをテーブルに置いて席に着くと、弘翔が苦笑しながら話しかけてきた。
「混んでるでしょう。月末はどの部署も忙しいので、正午ぐらいの方が逆に空いてますよ」
「……はぁ」
だから来月末はその時間を選んだ方がいい、と教えられる。そして座った瞬間に何か嫌味や暴言を言われるかと思ったが、そんなこともない。
その後は何も言わずに、生姜焼きと一口がやけに大容量の白米を交互に口に運び、もくもくと咀嚼する。豪快で男らしい食べ方だ。小食の雪哉には真似出来そうにない。
「……お人好しって言われませんか」
「うん?」
「俺、愛梨の今の恋人なんですけど」
「あー、まぁ、そうですね」