約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「まぁ正直、結構耐えた。あの子は最初から最後まで俺を友達としか見てなかったから。何度も意識させてやろうって思ったけど」
「……」

 自嘲する弘翔の言葉には、身に覚えがありすぎた。雪哉のアプローチをかわす愛梨を見て、恋人に染められていない、とも、そう教育されているのかも、とも思ったが、答えは前者だった。愛梨はやっぱり恋愛事に対して鈍感なのかもしれない。睦まじくて羨ましいとさえ思っていた愛梨と弘翔の関係も、愛梨としてはただの友達関係の延長だったのかもしれない。

「でも無理強いしようとは思わなかったな。泣かれたくなかったし」

 そんな弘翔の言葉が、わからないわけではない。雪哉も『嫌われたくない』『泣かれたくない』と、中学のときは思っていた。愛梨に距離を置かれたくなくて、幼馴染み以下の存在になるのが怖くて、結局渡米する直前まで自分の気持ちを打ち明けられなかった。

 けれど指を咥えて見ているだけでは、手に入らない現実を知ってしまった。自分の感情を表現しないと、気付いてすらもらえないと知ってしまった。だから何度でも言うし、抱きしめてキスもするし、それ以上の事もする。逃がすつもりはないと、他の男に目移りなんかさせないと、ちゃんと教え続ける。

 愛梨にそれをしなかった弘翔は――

「よかった、『弘翔』が優しい人で」

 優しい、のだろう。

 弘翔はきっと、雪哉と同じように何度も自分をオトコとして認識させようと葛藤した筈だ。けれど結局、自分の独占欲や執着心よりも愛梨の感情を優先した。それができるほどに弘翔は優しい。相手が弘翔じゃなければ、愛梨はとっくに男の味を知らされていたのかも、と思うと背筋が薄ら寒い。

 けれど結局、愛梨は雪哉だけのものになった。それが全ての事実だ。

「……雪哉、腹黒いって言われるだろ」
「言われない」
「嘘だー、思ってても周りが言わないだけだと思うぞー」

 いや、言われてるけど。

 でも本当に腹黒いわけではない。愛梨のことが好きなだけ。それを表に出さないようにしようと思っても、結局いくらか外に出てしまうから内と外で矛盾しているように見えるだけで。
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