約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
眠っている自分がどんな事を口走っているのかなんて知る筈もなく、当り前のように恥ずかしい過去を暴露した母親の言葉を、愛梨は慌てて遮るしかない。だが愛梨の制止など気にもせず、母2人はほう、と感嘆する。
「鳴かぬ蛍が身を焦がすって感じ? いやーん、ロマンチックねぇ」
「和花奈、昔からそういうの好きよね」
「愛子ちゃんだって好きでしょ~~」
ちょっともう、ホントに止めて。ロマンチックだのドラマチックだの言ってるけど、それ自分の娘と息子だよ? いいの、それで!?
「だから雪哉君をうちに連れてきたときは『ついに来たかぁ』って思ったわよ~。雪哉君、ほんとに愛梨なんかでいいのかなー? って思ってたわ」
そう思っていたのは、わかっていた。母の顔に『雪哉君かっこいい』と書いてたのは、愛梨もちゃんと認識していた。だが、もはや突っ込む気力すら起こらない。
「2人が帰ったあと、お父さん動転しちゃって大変だったんだから。マンションの自動ドアに挟まれるわ、急に水風呂に入りたいとか言い出すわ、教育テレビの子供番組見て泣き出すわで。自分から『嫁にもらってやってくれ』なんて言ったのにね」
「うるさいぞ、母さん」
「お父さん……」
それは動揺しすぎ。
2人の話を要約すると、雪哉の母・和花奈も愛梨の母・愛子も、雪哉が日本に戻ってきた直後の5年前から、既に2人が付き合っていると思っていたらしい。雪哉が愛梨の連絡先も知らずに日本に戻ったとは、両親4人とも思ってもいなかった。
だから愛梨の母に「彼女いないの?」とカマをかけられた雪哉が「いない」と答えたのは、両親の前で照れる愛梨を庇うためだと解釈したらしく、その後の雪哉の顔を見ていて「全然隠しきれてないわよ~」と思っていたとのこと。確かに雪哉は最初から隠す気持ちすらなかっただろうけれど。遊びすぎちゃったかしらね、と母が朗らかに笑う。
前回のクラス会の時に『いつ報告してくるのかしらねー』なんて2人の間でキャッキャと現状を確認し合ったらしいが、その頃の愛梨は雪哉と付き合うどころか、雪哉が日本に帰ってきていることすら知らなかった。
そうして6人で状況を確認したのに、あきれた事に愛子と和花奈から返って来た言葉は、
「結婚式楽しみねぇ」
「ねー!」
だけだった。
いや、もっと他に言う事あるでしょ!?
――― Fin *