約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
思わず『へぇ』と感嘆する。
玲子ほど仕事が出来て周りを注意深く観察してる人でも、自分に向けられる好意には気付かないものらしい。玲子がそうなら、自分が気付かないのなんて仕方がないかと思っていると、
「ただ愛梨と弘翔は、私と違って毎日顔合わせてるんだからね。流石に気付くわよ」
ぐっさりと釘を刺された。
うう、どうせ鈍感ですよ。
むう、と唇を尖らせると、その様子を見た玲子が可笑しそうに笑い出した。
「問題は弘翔より、イケメン通訳の方でしょ。あれが幼馴染みとか、ズルすぎるわ」
玲子が本題に軌道修正するので、愛梨は思わずカフェの天井を仰いだ。
既婚の身となった玲子でも、社内に魅力的な異性がいると仕事に対するモチベーションが変わるらしい。
新婚旅行から帰ってきて少しの間は浮かれていた玲子だったが、課長との舌戦が再開されるとすぐにいつもの様子に戻った。
だが昨日から雪哉を含む3人の通訳者の業務が本格的に開始され、玲子も社内で雪哉の姿を見かけたらしい。今日の玲子はいつもの数倍テンションが高かった。
そんな玲子に、すっかり伝え損ねていた雪哉との関係を打ち明けると、機嫌が良かった筈の玲子が驚愕の悲鳴を上げた。カフェの中にいた店員と客が全員一斉にこちらを向いたのがつい10分ほど前の話。
「別に何もないってば…」
叫んだのは玲子だが、思い出すとこっちが恥ずかしくなってしまう。ストローでくるくるとレモンティーをかき混ぜながら言うと、玲子は少し不満そうな声を漏らした。
「でも向こう、覚えてたんでしょ?」
「う、うん。多分だけど…」
「あら、じゃあ弘翔は完敗ねー。ご愁傷様」
「えぇ…? そんな事ないよ」