約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
不思議そうに訊ねられるが、愛梨は曖昧に頷くことしかできない。長年の片思いに蹴りをつける代償に、弘翔を傷つけたくはない。傷付けずにケリをつける方法もわからない。
何から何まで経験に乏しく、自分でもどう考えてどう行動するのが正解なのかわからないから。自分よりも経験豊富な筈の玲子に、とるべき行動の指針を示してほしいと思って相談したのに。
「玲子はどうしたらいいと思う?」
「んー、愛梨の好きにしたらいいと思う」
「えー!?」
不満の声を漏らすと、頬杖をついたままの玲子がそっと息をついた。そして愛梨の顔を興味深げに眺めながら、綺麗な唇を綻ばせて笑う。
「そりゃ、同期で仲良い愛梨と弘翔がそのままゴールインしてくれたら、私も嬉しいよ? でもそれ以上に、愛梨には後悔してほしくないから」
だから自分で決めなさい、と笑顔のままちょっと怒られてしまう。愛梨の心は愛梨のもので、他の人には決められない。『それは自分でもわかっているでしょ?』と。
「それに私も後悔したくない」
「うん?」
玲子が唐突に話題の舵を切る。意味が分からずに玲子の顔を見つめると、彼女はにこやかな笑顔を浮かべたままスッと立ち上がった。
「私、午後イチで『プロクオ』の編集と打ち合わせ予定なの。早めに準備したいから、もう戻りまーす」
「ええぇ? 待ってよー!」
「詰まるからゆっくり食べなよ。愛梨は午後のミーティングまで余裕あるんでしょ?」
そう言い残すと、玲子は返事も待たずに立ち去っていく。慌てて後を追おうと思ったが、空いた皿とグラスが乗ったトレーを返却窓口に押し込み、颯爽とカフェを出ていく玲子のスピードには追い付ける気がしなかった。