約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「もー…」
大声を出して周囲の注目を集めた張本人の玲子が、愛梨を置いていってしまうなんてひどい。おそらく店員も客もこちらの様子など気にも留めていないだろうけれど、1人で思い出して勝手に気まずい思いをした。
アイスレモンティーを1口飲むと、残っていたサンドイッチも口に運ぶ。
(私の好きに…か)
自分は、どうしたいのか。
その答えは、もう1か月前に出ている。
愛梨はもう、雪哉との約束を追わないと決めた。それは雪哉が目の前に現れても同じことだ。
あの日愛梨は雪哉との約束を捨て、弘翔の手を取ると決めた。その時点で愛梨は雪哉との約束を一方的に反故にして、弘翔を選んだのと同じ。
自分から『約束』と『思い出』を手放した。だから愛梨から雪哉に伝えることはもうない。これが1か月前のあの日に戻ったなら、話は変わってくるのかもしれない。けれど時間は戻らない。
もし時間が戻るのなら、自分は戻りたいだろうか。
――戻りたい。
1か月前ではなく、15年前に。
幼い自分と幼い雪哉に『その約束は絶対に果たせないから、やめなさい』と忠告したい。27歳の愛梨に約束することを制止されたら、中学生の雪哉はなんと言うのだろうか。
「愛梨」
グラスの中の氷がカシャカシャと涼しく揺れる音に、愛梨の名前が重なった。
名前を呼ばれた事に驚いて顔を上げると、更なる驚きが愛梨を待ち構えていた。
そこにはたった数分前に玲子に『会わない』と宣言した人物が、カフェのトレーを手にして愛梨の顔をじっと見つめている。
「……ユキ…」