約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「厳しくするってことは、それだけ可愛がられてるってことだろ」
「あはは、そうだね」
披露宴からの帰り道、弘翔と並んで歩きながら今日の主役とそれを祝福する人々の笑顔を思い浮かべた。
親、きょうだい、親戚、友達、職場の人、お世話になった人。たくさんの人に囲まれながら、新しく家庭が築かれ温かく祝福される出来事は、一生の中でも数少ない素敵なイベントだと思う。
「幼馴染みと結婚かぁ」
隣を歩いていた弘翔がふと発した呟きに、自分の心臓が跳ねた音を聴いた。けれど必死に認識しないよう努める。
一呼吸置いてちらりと隣を見ると、弘翔と目が合った。愛梨は弘翔が呟いた言葉と全く別の話をして気を逸らせようしたが、間を埋めるために適した話題は何も思いつかなかった。
「弘翔は幼馴染みっているの?」
仕方がなく訊ねると、弘翔が一瞬の間を置いてにやりと笑う。
「いるけど。付き合うとか、結婚とかは絶対ないな」
「へぇ、そうなんだ?」
「だって男だもん」
にやにや笑う弘翔の台詞に、思わずつられて笑ってしまう。
愛梨の幼馴染みも、玲子の幼馴染みもたまたま異性だったが、幼馴染みが同性の場合だってある。もちろん幼馴染みがいないという人だって、世の中にはたくさんいるだろう。
そう思うと『幼馴染み』の定義というのは随分曖昧だと思う。幼稚園から同じ地区内にいて、中学ぐらいまでずっと同じ学校に通っていたら、もう全員が幼馴染みな気がする。けれど、きっとそういう事でもない。
少なくとも愛梨にとっては、『幼馴染み』はもっと特別な存在だった。