約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「遅かったな、雪哉」
浩一郎に声を掛けられたので、ふと我に返って首を縦に振る。もう50歳が目前に迫る年齢でありながら、肉体の若々しさと精神のダンディズムを合わせ持つ浩一郎は、メインの英語とフランス語の他に、ドイツ語とポルトガル語にも堪能だ。
「私、めっちゃお腹減った~。何か食べてこー?」
友理香がスマートフォンで近隣の飲食店を検索しながら口を尖らせる。友理香は雪哉の1つ年下で、女優顔負けの美貌と存在感を持つが、生意気な性格と口調だけなら日本の女子高校生のようにも感じられる。これでも英語に加えて中国語と韓国語は流暢に扱えるのだから、人は見た目じゃわからないものだ。
浩一郎と友理香は他の企業への勤務予定もあり、週に1~2回程度しか出勤日が無いため、今日の重役への挨拶回りは割愛していた。なら雪哉も割愛させてくれと心の中で願ったが、それは無理だった。
案の定、社長・副社長・常務の前へ次々と引っ張り回されてしまい、2人の事は随分待たせてしまった。雪哉も疲れたが、2人も退屈だった筈だ。
夕食の店の選定は友理香に任せるとする。特に苦手なものはないし、それは浩一郎も同じだ。
いや、そんな事よりも。
(誰だ、あいつ)
愛梨と一緒にいた、あの男は一体誰なんだ。愛梨の弟の響平君、ではない。顔が全然違うし、姉弟で同じ会社に勤めているとは思えない。
家族以外で、ドラックストアに寄って日用品を買い求める会話をする間柄、と言えば。
(恋人…?)
想像するだけで、ひどい胸やけがした。