約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

たったひとりの好きな人


 愛梨と会話をして、彼女が全然変わっていなかったことが単純に嬉しかった。昔のように冗談を言い、下らない話で笑えることが楽しかった。

 けれど、そう思っていたのは自分だけのようだった。

(やっぱり、恋人なのか)

 1週間前、会社内のエレベーターで会った時に愛梨と一緒にいた男性の姿を思い出す。詳細なプロフィールは知らないが、自分たちとさほど変わらない年齢に見えた。ダークグレーのビジネススーツに瑠璃色のネクタイを締め、整髪剤で頭髪を整えた爽やかな好青年。専務へ向けた挨拶を横柄に流されても特に気にした様子もなく、何処か余裕すら感じられた。

 その恋人に誤解されたくないから、2人で会うことは出来ない。愛梨にそう断られてしまった。

(あんなに可愛かったら、恋人ぐらいいるか。……いるよな)

 想像通りのショートヘアだった愛梨は、想像よりもずっと可愛らしい女性に成長していた。

 昔の愛梨は男の子みたいな性格と風貌で、中学生の頃は大多数の男子が愛梨を女の子扱いしていなかった。愛梨を明確に可愛いと認識していたのは、たぶん雪哉だけだった。

 懐かしい姿を思い出す。それと同時に、懐かしい別れの瞬間も。

(愛梨は、もう忘れたのか…)

 あの日の約束を。雪哉が懸命に伝えた言葉を。その言葉に頷いてくれた事を。忘れてしまったのか、それとも中学生の言葉なんて最初から本気にしてくれていなかったのだろうか。

「あれ、雪哉。今日は外ランチ?」
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