約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
愛梨には自宅がお向かい同士で幼少期から親交があった河上 雪哉という男の子の幼馴染みがいた。小さい頃から2人で川遊びや砂遊びをしたり、テレビゲームをしたり一緒に宿題をしたりととにかく仲が良かった。
けれど愛梨は、雪哉と恋人として付き合っていたわけではない。
小学生から中学生になると、1学期のうちに誰が誰を好きだとか、何組の誰かと誰かが付き合っているだとかいう色恋事が急速に発展していったが、愛梨と雪哉の間柄には特に変化は見られなかった。
部活の終了時刻さえ合えば相変わらず一緒に帰り、たまに一緒に宿題をする関係が漫然と続いていた。
だが夏休みが近付いてきた中学1年の7月初旬、雪哉から画家である父の都合でアメリカに移住する事が決まったと告げられた。
雪哉のアメリカ行きの話は、愛梨にとって寝耳に水だった。愛梨はこの先も変わらず続くと思っていた関係がある日を境にぱったりと途絶え、その先が一切存在しないという無情な現実に直面した。
その話を聞いても悲しいと思わなかったのは、あまりに現実味がなかったからだと思う。悲しいと言うよりただただびっくりした愛梨は、雪哉の前でぼろぼろと涙を落としてしまった。
どんどん溢れてくる涙を堪えきれず俯いてしまった愛梨を突然抱きしめ、雪哉はその耳元に『約束』を囁いた。
『愛梨。俺、絶対に愛梨を迎えにくるから。待ってて』
雪哉の声にはっと顔を上げると、さらさらの黒いストレートヘアと奥二重の黒い瞳が間近に迫っていた。