約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 浩一郎は時折、雪哉を『腹黒い』と形容する。雪哉としてはそんなつもりはないし、ちゃんと否定しておかないと周囲にもそういうキャラクターだと認識されてしまうので、その都度しっかり否定するようにしている。だが目の前の先輩はその返答にさえ面白おかしく笑うだけだ。

「で、さっき一緒だった子、誰?」

 すっかり冷めたクロックムッシュを口に運んだところで、突然そう訊ねられた。銀縁の眼鏡の奥で興味津々に瞳を輝かせる浩一郎には内心かなり動揺する。

「……見てたんですか」
「違うよ。たまたま見えたの」

 ニコニコと笑う浩一郎の顔を見て、面倒な人に見られてしまった事を悟る。だが友理香に見られるよりは数倍マシだ。

 雪哉はクロックムッシュを咀嚼している間に愛梨との関係を深掘りされないための言い訳を練るつもりでいた。けれど口を開く前に、思わぬ形で浩一郎に先回りされてしまう。

「やめてよー? クライアントの女子社員、片っ端から泣かせるの」
「……そういうのじゃないですから」

 思わずむせそうになるのを、平常心を装ってやり過ごす。にやにやと笑う浩一郎に何かを見透かされているような錯覚を覚えたが、

「でも雪哉、ショートカットの女の子好きでしょ?」

 と言われてしまえば、今度は開いた口が塞がらなくなってしまった。
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