約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
雪哉より20歳も年上の浩一郎は、意外なところに敏感だ。一緒にチームを組むことも多いので、雪哉や友理香がクライアントの社員や顧客と交わすやりとりにもちゃんと目を掛けてくれているようだ。それは有難いことだが、何も異性の好みまで把握する必要はないだろう。
もちろん雪哉は、自分から女性を誘った事など無い。けれど特定の特徴を持つ女性が微笑む姿を見ると、確かに心が惹かれることはある。
無自覚や無意識というのは恐ろしいもので、浩一郎に指摘されるまでその『特定の特徴』がショートヘアである事には、自分でも気付いていなかった。
「違いますから。本当に」
「ふうん?」
やっとの思いで絞り出すと、浩一郎の口元は更に弓形に近付く。
だが本当に違うのだ。確かに雪哉はショートカットヘアの女性ばかり目で追っていたかもしれないが、それは無意識のうちに愛梨を探していたからに他ならない。
愛梨に再会した今、浩一郎が言う雪哉の行動はもう目にすることも無いだろう。と言うのを事細かに説明するつもりは、もちろんないけれど。
浩一郎からはそれ以上追究されなかったので、冷めたコーヒーを飲み干してようやく息をつく。追及を止めた者と追及を逃れた者の間にはしばしの沈黙が下りたが、雪哉はふと思いついた疑問を浩一郎に投げてみた。
「浩さん。惚れた女に、別の男がいたらどうしますか」
仕事の話とは全く関係がないが、人生の先輩に意見を聞いてみたくなった。
確かに新しく始まった仕事は忙しいが、危機的状況ではない。そもそも手際が良い会社は自社で語学に堪能な人材を採用して育成するので、むしろ手際が悪い会社に派遣されるのが当たり前の世界だ。この程度の忙しさなら、予想の範囲内ではある。
だが雪哉のプライベートは、現状かなり切迫した状況だ。
問い掛けると、浩一郎の目が丸くなった。