約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「いや、俺は嫁さん一筋だから」
「知ってますけど。そういう事じゃなくて」

 愛妻家の浩一郎にする質問ではなかったかもしれない。浩一郎と奥方はかなり年齢が離れており、彼がまだ年若い奥方を相当溺愛しているのは知っている。お互い初婚らしいが、そんな浩一郎も昔は相当なプレイボーイだったと会社の先輩たちから聞いていた。

 それなら1度や2度、他の誰かと好いた女性を取り合った経験ぐらいあるだろう。あるいは愛してやまない奥方に別の男がいたと想像してくれてもいい。それなら、どうする?という話だ。

「奪うでしょ。男なら」

 みなまで説明せずとも、浩一郎は雪哉が欲しかった台詞をにこやかに呟いた。耳から入った浩一郎の台詞が全身を巡り、最後に胸の奥にストンと落ちた気がした。

「ですよね。浩さんなら、そう言うと思ってました」

 別にこれが、浩一郎の後押しだとは思っていない。ただ、自分が世間とズレているのではないかと不安になったので、確認しただけだ。結論から言えば、雪哉の考え方は特別偏向しているわけではないらしかった。それがわかれば、十分だ。

 頷いた雪哉の顔と自分が飲んでいるドロドロの液体を見比べた浩一郎は、心の底から納得したような笑い声をあげる。

「ほーら、腹黒ーい」
< 53 / 222 >

この作品をシェア

pagetop