約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「雪哉はみんなに優しいから。ちゃんと言っておかないと、クライアント先の女性社員さんたち、いつも勘違いしちゃうの」
嫌な予感の直後、友理香がとんでもない言葉を口走った。雪哉の個人事情を突然暴露し始めた友理香に、ぎょっとして驚きの視線を向ける。だがその小悪魔的な笑顔は1ミリも崩れることはない。
「雪哉は誰とも付き合わないから。みんな、会社中の人にちゃーんと伝えておいてね」
「友理香!」
流石に叱責した。これ以上友理香に喋らせるのは危険すぎる。
はっとして周囲を見ると、案の定その場にいた全員がぽかんと口を開けて友理香の顔を見つめていた。一部の視線は友理香ではなく雪哉にも向けられている。更に顔を上げると、部署内の別の人達まで何事かとワークラウンジを覗き込んでいるのだから、焦りもする。
「っ…! とにかく頼んだ! 急遽取引先に随行することになったから、急いでるんだ」
「はいはーい。いってらっしゃーい!」
仲の良さをアピールするように、無駄に元気な声で送り出してきた友理香に、更なる苛立ちを感じる。ちらりと愛梨の方へ視線を向けると、愛梨も他の人と同じようにぽかんと口を開けて驚きの表情を浮かべていた。
時計を確認すると、指定された時刻まであと7分。5分前に到着しておきたい事を考えると、あと2分しかない。苛立ちと焦りを胸の奥に押し込むと、歯痒い心地のままマーケティング部のアクリルドアを引っ張った。