約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
黒い子猫のようで可愛らしいと思っていた雪哉と近距離で見つめ合うと、子猫じゃなくて黒ヒョウのようなしたたかさと鋭さを感じた。その頃はバレーボール部で上に飛び跳ねてばかりだった愛梨と、サッカー部でボールを追いかけてばかりだった雪哉の身長は、さほど変わらなかったと記憶している。
愛梨が瞠目しているうちに、雪哉はそっと愛梨の唇に自分の唇を重ねた。
ほんの一瞬、触れるだけのキスだった。
愛梨がびっくりして後退ろうとすると、伸びてきた雪哉の手が愛梨の腕を掴んだ。
『愛梨は、俺のこと嫌い?』
つい数か月前まで『僕』だった雪哉の一人称が『俺』に変わっていたことには、この日から随分時間が経って、思い出して気が付いた。その時は、とにかく首を横に振ることに懸命だった。
『私も、ユキのこと、ずっと待ってる』
絞り出すようにそう言うと、雪哉は嬉しそうに顔を綻ばせ、愛梨をもう1度抱きしめると名残惜しそうにアメリカに旅立っていった。
そしてそんな甘やかな『約束』から、15年の歳月が流れた。当時中学1年生で12歳だった愛梨も27歳になった。
その間、雪哉とは1度も会っていない。中学1年生の頃はお互いに携帯電話や個別のメールアドレスなど持っていなかったし、アメリカの住所もわからなかった。
おまけにそれから少しして、愛梨の一家も祖父母の施設入居を機に田舎の一軒家から都心の分譲マンションに引っ越してしまった。
だから、愛梨と雪哉を繋ぐ糸は途切れ、結局それきりになってしまった。