約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「上田さんだけに連絡先を教えては、不快に思われるでしょう」
「……ご丁寧にどうも」
弘翔の心情に先回りした雪哉に、弘翔が別の不快感を感じたような気配がした。程なくしてふっと力を抜いた弘翔は、雪哉に別れの言葉を言い渡した。
「今日はこれで失礼します。愛梨、行こう」
「うん…」
間髪入れずに導かれたので、素直に従った。情けない自分と反比例するように頼もしい恋人で本当に助かる。
雪哉の横を通り抜けるとき、ショートヘアで存在しない筈の後ろ髪をするりと撫でられた気がした。
前回は振り返ることが出来なかったが、不思議な感覚を感じたので思わず首だけで振り返ってしまう。
視線を向けると、雪哉はじっとこちらを見つめていた。目が合うと笑顔を浮かべて、左手を軽く振られる。その軽い挨拶にどう返したらいいのかと思ったが、手を振り返すのも何かが違う気がして、仕方がなくペコリと会釈した。
会社を出ると弘翔が無言で愛梨の手を握ってきた。今度こそ2人で会ったことを追及されるかと身構えたが、しばらくして弘翔が発した言葉は
「何食うか、決まった?」
だった。