約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
恋人のルール
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「どっちでもいい、はウケたな。うん」
中華料理チェーン店のテーブルに向かい合って座り、注文を取りに来た女性店員にいくつかのメニューを告げた後、弘翔は肩を震わせながら堪えていた笑いを解放するような呟きを零した。
弘翔が怒っていなかった事に安堵する。けれど、それでもやはり後ろめたさを感じてしまう。
「ごめん」
「何が? …あぁ、『行かない』って即答しなかったこと?」
「そうじゃなくて…」
それもあったかぁ。いや、むしろそっちの方が重要かもしれない。
なんだか自分が色々ズレているような気がしたが、とりあえず事の次第を順番に説明していく。カフェで玲子とランチをしていたら、玲子に置いてけぼりを食らい、そこで雪哉と会った事。その時にもう少し話したいと言われた事。その報告をしていなかった事。
謝罪を混ぜながら説明すると、弘翔は怒った風もなく『そうなんだ』と呟いた。
「なぁ、愛梨。やっぱり、河上さんに会ってみる?」
それどころか、話を聞いた弘翔は雪哉の提案を受けてはどうかと問い掛けてきた。
前回あんなに嫌がっていたのを知っているので、弘翔の方からその選択を提示されるとは思っておらず、思わず『へっ?』と間抜けな声が喉から飛び出す。
「あんなに丁寧に言われたら、断るのは良心が痛むだろ。それに長年の片思いの相手だもんな?」
少し悪戯っぽく笑われて『あ、これまた揶揄われてるんだな』と気付いてしまう。
じっと弘翔の顔を見つめてみる。いつも優しい恋人は今日も愛梨に優しい眼差しを向けてくれる。
「えっと、3人で会うっていうのは?」
「えぇ…嫌だよ。昔の話なんかされても、俺には分からないし」
『2人で会うのが嫌なら』と思って進言したが、それはサラリと断られた。言われてみれば当たり前の事を口にしてしまって自分の安易な発言を恥じたが、弘翔も自分の発言を省みたようだ。
「って、今の心せまい発言?」
ハァ、とテーブルの上に溜息を落とした弘翔がそのまま項垂れる。しょんぼりとした様子に、思わず笑ってしまいながら首を振る。