約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 リビングから、今度は父が顔を覗かせる。雪哉に挨拶をした後で愛梨に向き直った父に『来るならもっと早く連絡しなさい』と言われてしまう。生返事をする反面、父の方が母の数倍マトモな感性に思えた。

 洗面所で手を洗ってリビングに入ると、そのまま揃って食卓に着く。ダイニングテーブルの上に並ぶのは、愛梨と弟の響平が帰ってきたときにはあり得ない程の豪華な昼食だ。運動会の時のように、唐揚げや卵焼きといった定番のおかずや手の込んだ中華総菜が大皿に乗せられている。そしてお寿司……出前まで取ったのだろうか。

 ご馳走を用意した方がいいと言ったのは、そうめんや残り物のカレーは止めて欲しいという意味で、オードブルや出前を用意して欲しいという意味ではなかったのに。
 けれどテンションの高い母の様子を見て、その説明は引っ込めた。

 豪華な昼食を口に運びながら、両親と雪哉の会話に耳を傾ける。内容のほとんどは以前カフェで聞いた事と同じ、雪哉がアメリカに行ってからの事。それから愛梨も知らなかった、日本に戻ってきてから通訳の仕事をするまでの経緯。

「でもびっくりしたわぁ。まさか愛梨と同じ会社なんて」

 豪勢な昼食をおおよそ堪能し終わった頃、母が感心したように頷いた。

「俺も驚きました。でも俺は派遣なので、正社員の愛梨とは身分が違いますけど」
「まぁ、謙遜ね。通訳なんてすごいじゃない」
「そうだぞ。愛梨なんて、日本語すら怪しいもんな」
「ちょっと、お父さん?」

 雪哉の語学力は確かに素晴らしいが、それで愛梨が見下げられるのは納得がいかない。頬を膨らませると、父にはアハハと笑って誤魔化される。
< 74 / 222 >

この作品をシェア

pagetop