約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
最後まで言い終わらないうちに、今度は雪哉の声が横から入り込んできた。鋭い声で制止されたので、思わず雪哉の顔を見る。
「顔、赤いよ? 少し休んだら?」
伸びてきた雪哉の人差し指が、するりと愛梨の頬を撫でる。付き合っているわけでも何でもないのに、両親の目の前でいとも簡単に肌に触れられ、思考が再度停止した。
え? と疑問に思う声も、声にならず。
「まあ…本当にかっこよくなっちゃって…」
母の感嘆が正面から聞こえて、ハッと我に返る。顔を見ると、母は雪哉の色を含んだ動作にうっとりと見惚れていた。
「お前も冗談を本気にするな。愛梨なんかが相手じゃ、雪哉くんが可哀そうだろ」
父は父で雪哉を擁護するようなセリフを呟いたが、娘を明確に女性扱いする存在の出現に驚いたように目を見開いてる。
「~~~っ! ユキ、卒業アルバム見るんでしょ!? 私の部屋こっちだから!」
「あ、うん」
自分の味方がいないこの空間にとうとう耐えられなくなり、慌ててダイニングから立ち上がった。母が小さな声で『片付けはやっておくから、そのままでいいわよ』と呟いたので、甘えさせてもらう。
「冗談だから気にしないでね」
「そうだぞ。雪哉くんは、他にもっと素敵な女性を見つけた方がいい」
泣きたい気持ちでリビングを出ようとしたところで、母と父が雪哉にそんな言葉を掛けた。愛梨が『当たり前でしょ!』と声を張り上げると、母も父もからからと笑っていた。
けれどリビングを出て愛梨の後をついてきた雪哉が少し困ったように
「他の女性なんて考えたこともないな」
と呟いた言葉が耳に届いた。
思わず振り返る。だが、雪哉はにこりと笑顔を作るだけで、それ以上は何も言ってくれなかった。