約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 知って欲しいとは思っていない。
 いや、むしろ今更知られたくない。

 何か別の話題を、と脳内をぐるりと周回する。だが動揺している所為で適切な話題が見つからない。頑張っても、思い出せるのはせいぜい先程の会話ぐらいだ。

「そ、そういえばユキ、恋人いないんだ…?」

 話題が見つからないので、軽いテイストで聞いたつもりだった。振り向いた雪哉に、じっと瞳を見つめられ、会話の選択をミスしたことに気付く。散々母に『プライベートに踏み込むようなことを聞かないで』と思っていた自分が、あっさり同じことを聞いてしまう遺伝子の濃さが怖い。

「いないよ」

 内心『失礼なことを聞いてごめんなさい』と思っていると、雪哉がポツリと呟いた。恋人がいるかどうかなど聞かれたくも言いたくもないだろうに、愛梨の質問にちゃんと答えてくれた。

 そして先程と同じ回答を聞くと、改めて意外に感じる。この見た目ならどんな女性も選び放題だろうなぁ、と思うのに。

「むしろ愛梨に彼氏がいる事に吃驚した」

 母のテンションを上げるほどの美男子に成長した顔を眺めていると、意外にも雪哉の方が話を掘り下げてきた。玲子や弘翔のように、雪哉まで自分を揶揄うつもりなのかと思うと自然に表情が崩れる。

「えー、私だって相変わらずサルっぽいけど、ちゃんと女の子なんだよー?」
「いや、そういう意味じゃなくて」

 けれど雪哉は、少し呆れたように溜息をつくだけ。揶揄われたと思ったから応じたのに、雪哉の眼差しは真剣そのものだった。そしてその眼差しで、再び瞳を覗き込まれる。

「なんで恋人いるの?」
「え、なんでって…? だってもう私、27歳だよ?」
「知ってる。俺も同じ年齢だよ」
「そうでしょ。27歳、恋人いても変な年齢じゃないでしょ」
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