約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
自分でも驚くほどあっさり呟く。
当時の愛梨は、雪哉のことを異性としては全く意識していなかった。
けれどあの約束の瞬間、愛梨の中でただの幼馴染みだった河上雪哉は、急激に『男』に変化した。それと同時に自覚した雪哉への恋心を、27歳の今まで大事にしてきたけれど。
現実と理想のボーダーラインと、自分がそのラインとどれだけ離れた位置で止まっているのかを認識してしまったのが、最後。
雪哉との約束を大事にし続けてる意味も、雪哉の事が好きなのかどうかも分からなくなってきてしまった。
会えばわかるのかもしれない。けれど会えない……会い方すらわからない相手をどう思っているのかなんて、確認のしようもないから。
自分の心は自分にしかわからないはずなのに。自分が1番わかっていなんて、変なの。
「それなら、さ」
こっそりと自嘲する愛梨の背中を、弘翔の声が呼び止めた。振り返ると、目が合った弘翔が少し照れたように、口元を隠しながら呟く。
「俺と付き合わない?」
ぼそぼそとした声だったが、弘翔の発した言葉そのものはしっかりと耳に届いていた。けれどその言葉の意味を理解するのに時間がかかり、咄嗟には返事が出来ない。
「弘翔?」
「別に玲子の結婚に感化された訳じゃないからな」
名前を呼ぶと、弁明するようにひらりと弘翔が手を振る。だが1歩前に出た弘翔は、今度は照れも迷いも消してしっかりと愛梨と視線を合わせた。
「好きなんだ、愛梨の事」
弘翔の言葉が耳に届くと、夕暮れ前の街を通り抜けていく車の波がスローモーションになったように感じた。弘翔の珍しく真面目な顔が、いつもの冗談ではなく本気であることを裏付ける。
「努力するから」
何も言えずにいる愛梨の前に差し出されたのは、弘翔の決意だった。その決意に、長い間停滞していた愛梨の心がゆっくりと押され始める。