約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
最近まで恋人などいた事もなかったが、さぞ経験豊富であろう雪哉に、自分の恋愛経験の浅さを晒したくないという変なプライドが見え隠れした。咄嗟に年齢を隠れ蓑にしてやり過ごそうと思ったが、雪哉は余計に怪訝な顔をするばかり。
「……なんか噛み合わないな。俺、もしかして日本語の使い方忘れてる?」
微妙な顔のまま、雪哉が静かに首を傾げた。そして疑問の表情を消した雪哉が、見ていた高校のアルバムをパタンと閉じる。
「あのさ、愛梨。回りくどいの嫌だから単刀直入に言うけど」
卒業アルバムを少し離れたところへぐっと押し退けた雪哉は、背もたれにしていたベッドに肘をつき、身体の正面を愛梨の方向へ向けてきた。並んで座っていたのに、急に雪哉との距離が縮まる。
「愛梨は、俺と結婚する約束したよね?」
「……!?」
至近距離で雪哉に見つめられ、退路がないこんな状況で、突然投下された本日最大級の爆発物が目の前で弾ける。雪哉の問いかけに声が詰まり、喉の奥からは空気が細く漏れて出た。
それと同時に、身体から思考が無理矢理引き剥がされたような胸の痛みを感じる。あるいは脳に冷水を浴びせらたような。
(覚えて、たんだ…)
雪哉はとうの昔に忘れてしまったのだと思っていた。何せあれから15年もの時が流れている。
愛梨は忘れた。忘れるよう努力した。
忘れようと心に誓って、綺麗な装飾が施された小箱に『約束』を押し込んで、無理矢理鍵をかけた。いつか笑い話に出来るようになるまで、開かなくてもいいように。
それと引き換えに弘翔の手を取った。だから雪哉が覚えていても、忘れていなくても、今更どうすることもできない。愛梨には、知らないふりをすることしか出来ない。