約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「……それは聞きたくなかったな」

 愛梨の決意の上に重なった雪哉の声は、氷点下の冷気を思わせるほどに冷め切っていた。その氷のような冷たさに、一方的に約束を無かったことにした愛梨の『不誠実さ』を咎められているような気がした。

 沈黙。

 雪哉は何か考え込んでいるようで、何も言わない。もちろん愛梨も何も言えない。

 長い沈黙を貫くことで雪哉に仕置きを受けているような気分になった。それから、雪哉が自分の意見を是が非でも押し通そうとしている、強い圧迫感も。

 雪哉のそんな強情な態度に気が付くと、沈黙を打ち破る台詞は愛梨の方から出てきた。

「なんか、ユキ、変わったね」
「変わった? 俺が?」
「……うん。私の知ってるユキは、自分の意見を押し付けて無理な要求をする人じゃなかった」

 雪哉は元々、口数の多い子供ではなかった。どちらかと言うと物静かな性格で、愛梨の方がよっぽど活発な子供だった。そう記憶しているからこそ、今の雪哉の態度は殊更に圧を感じる。

「もっと、優しかった」

 威圧的な態度には、優しさを感じない。むしろ言葉に出来ない恐怖感を覚える。

 いや、本当は雪哉を責めるのがお門違いであることは愛梨自身がよくわかっている。2人の間で交わした約束を、一方的に反故にした愛梨が悪いのは言うまでもない。

 けれど、あんなものは幼い子供の通過儀礼だ。今更その約束を掘り起こしたところで、雪哉には何のメリットも無い筈なのに、そこまで強情に認めさせたい理由がわからない。

「別に何も変わってないよ。俺は昔からずっと、愛梨を独占したいと思ってた。愛梨に、俺の事だけ見ていて欲しかった」
「えっ…?」
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