約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
初めて聞く感情に、思わず顔を上げる。昔『から』と呟いた雪哉の瞳は、愛梨の瞳を捉えると静かに揺れ動いた。惹き込まれて、吸い込まれそうなほどの深い眼差しは、色を帯びたように少し濡れている。
「ただ子供は自分の発言に責任が取れないから。愛梨と離れたあの日まで、思ったことを口にしてなかっただけ」
その言葉に、はっとして我に返る。
小さな子供は責任が取れないから、って。それなら中学生なら責任が取れるという事なのだろうか。
「そんなの、嘘だよ…」
そんなことは無い。中学生だって、自分の言葉に責任を持てるような年齢じゃない。良し悪しの判断は出来るだろうけれど、未来の自分の言動まで責任なんか持てない。
けれどあの時の愛梨は、雪哉の言葉を信じた。長い歳月をただ待ち続ける時間に費やし、終わりの見えない幻想に疲れ果ててしまうほど、ずっと雪哉に恋焦がれていた。なのに。
「ユキは、迎えにくるから待っててって言ったのに。迎えになんか来なかった。15年の間、連絡も何もなかった」
違う。そんなことを言うつもりなどなかった。連絡手段がなかったことは、これまでの経緯を聞いて、ちゃんと理解していた。だから連絡が無かったことや長い間巡り合えなかった事で、雪哉を責めるのは間違っている。雪哉を待ち続けたのも、愛梨の自己判断だ。
それはちゃんと、分かっている。
でも分かっているからこそ、雪哉にも分かって欲しい。あれから時間が経って、お互いに大人になったことを。もう愛梨は、雪哉の幻想を追っていないことを。今の愛梨には雪哉以上に大切な恋人がいることを。