約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
灼熱のような視線と愛の台詞を仕舞い込んだ雪哉が、少し考え込んでからふと笑顔に戻った。そんな雪哉の様子を見て、愛梨もようやく動きを取り戻す。
「ユキ…。私たぶん、無理だと思うよ…」
けれど甘い金縛りから解かれて最初に口から出てきたのは、何とも可愛げのない台詞だった。怪訝な顔をして『何が?』と聞き返してきた雪哉にゆっくりと説明を重ねる。
「だってユキ、すごくカッコいいし、モテるでしょ? こんな見た目が男か女かわからない私なんかに無駄な時間使わなくても、ユキなら綺麗な人たくさん……」
「愛梨」
愛梨のつまらない意地は、雪哉の指先が静かに遮った。線は細いが男性らしく伸びた長い指先に、するりと頬を包み込まれる。
驚いて顔を上げると、頬を撫でていた親指の腹が、愛梨の唇の端をゆっくりと押すように動いた。
「愛梨は、今すぐ俺に唇塞がれたい?」
色のある声音で、それ以上喋ると無理にでも黙らせる事になるけどいいの? と確認される。問いかけられて瞠目したが、言葉の意味に気付いた瞬間、身体が再び強張った。
「ちょ、なんでそうなるの…っ!?」
「あはは、顔真っ赤だ。本当に……愛梨は可愛いな」
咄嗟に雪哉の手を振り払って離れるが、顔が赤くなってしまった事は自分ではどうにも出来ない。
笑い出した雪哉をぐっと睨む。その攻撃の威力があまり高くはない事は理解していたが、睨まれて笑いを収めた雪哉の表情にはそっと影が落ちた。
「なんでもっと早く、再会できなかったんだろうな」
そして苦しそうな表情のまま、まるで時間の流れと自分の行動を悔やむような台詞を呟く。
「こんなに可愛い愛梨を、堂々と自分のものだって言える権利が、今の俺にはない」
「………ユキ…?」