約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「彼氏かそうじゃないかなんて、どうでもいいと思ってたんだ。あの時の約束さえあれば、愛梨は俺のものになると思ってた」
辛さを吐き出すような言葉が愛梨の耳の奥にだけジンと響いた。その言葉に、体温が少しずつ上昇していくのをぼんやりと感じ取る。
「でも違った。今の愛梨は俺のものじゃなくて、他の男のものだ。彼氏だけが愛梨の全部を独占出来る。……2番目以下にそんな権利はない」
そして鋭いものへと変化した口調と視線が、再び愛梨の心臓と罪悪感を射抜く。
けれど雪哉の言葉に、愛梨が出せる答えなどない。これが弘翔と付き合う前の、たとえば今から2か月前だったなら、愛梨は答えを出せたのだろうか。こんなにも情熱的に、深く強く愛梨の事を想ってくれる幼馴染みに『嬉しい』と素直に言えたのだろうか。
「……ごめん」
けれどそれは、もしもの話だ。
愛梨はもう、弘翔を選んだ。
少なくとも今すぐ弘翔と別れて、雪哉の手を取るつもりはない。雪哉を追い続けることに疲れて、一方的に雪哉との約束を捨てた愛梨が、今更その手を取ることは出来ない。
一人寂しく時空の狭間に取り残されていた愛梨を見つけて、優しく手を差し伸べて救い出してくれた弘翔の事しか、今は優先できない。
約束を捨てた罪悪感を禊いでくれたことへの信愛。そして弘翔だけに感じる、他とは違う感情。勝手に天秤にかけるなんて卑怯だと思われるかもしれないけれど、この比重は覆せない。いくら雪哉が、ほんの少し前まで恋焦がれていた存在だとしても。
「……今日はもう帰ろうか。これ以上ここにいたら、俺の方がどうにかなりそうだ」
祈りにも似た感情が届いたのか。俯いていると、雪哉がそっと話を打ち切ってくれた。