約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
ビックリしすぎた所為で、弘翔には実際の出来事の1割も報告できていない。ランチを一緒に食べて、昔の話をして、夕方には別れたという、肝心なところを全て割愛しタイムテーブルを読み上げただけの報告で終わってしまった。
弘翔には説明のほとんどを端折っただけで、決して嘘はついていない。だが、それ以上の報告などとても出来る気がしない。
「でも、残念でした。玲子は既婚者だし、愛梨は彼氏とラブラブだもんね?」
「……へえ?」
弘翔の事を考えていると、友理香が唐突に手榴弾のピンを引き抜いた。殺傷能力が高めの発言を耳にして、機嫌が良かったはずの雪哉の周辺気圧が急降下する。
(友理香ちゃんんん~!)
友理香は、愛梨の味方ではないらしい。
それも仕方がない。この場で彼女だけが、愛梨と雪哉の関係を知らない。もちろん玲子と雪哉の間にあるのは共通認識ではないが、愛梨が報告しているので玲子に事情は通っている。雪哉に至っては当事者だ。
「玲子は結婚してるんだ?」
下の名前で呼ぶと宣言していた通り、雪哉はさらりと玲子を呼び捨てにした。スマートで鮮やかな距離の詰め方を目の当たりにして、一瞬おおぉ…!と感動しそうになる。
「そう。結婚式から、まだ2か月なの」
「そうなんだ。おめでとう」
「ありがとう」
そして私と弘翔が付き合い始めて2か月です。とは雪哉の前では口が裂けても言えない愛梨だったが、
「で? 愛梨は彼氏と仲良いの?」
と、知っているであろう事実を改めて確認される。『え、心の声漏れてた?』と疑ってしまうほど、軽やかな口調と的確なタイミングで。
「えーとーぉ」
そろりそろりと視線を上げていく。既に興味を失っているらしい友理香はラーメンを食べるのに夢中で、逆に興味津々な玲子は愛梨をにやにやと見つめている。そして雪哉は。
(ユキ目が怖いよおぉ…。全然笑ってないし!)
案の定、怒っているらしかった。