約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「どうしよう、って泣きそうになってたときに、雪哉に助けてもらったんだ」
だが悲しい顔は一転して、牡丹の花が綻んだような笑顔になる。元の顔立ちが美しい友理香が笑顔になると、周囲の空気まで浄化して癒すような華やかさがあった。
「その時の雪哉、すごくカッコよくて。そこから雪哉は、ずっと私の王子様なの」
そしてその笑顔を引き出す雪哉にも、特別な力があるように感じられる。そんな王子様が自分の幼馴染みで、しかも現在進行形で口説かれていることもすっかり忘れ、
「すごい素敵な話だね…」
と友理香の話に思わずときめいてしまった。愛梨の言葉に大きく頷いた友理香だったが、すぐにシュンと小さくなってしまう。
「でも雪哉には想い人がいるんだって」
「!!」
友理香の急激な方向転換に、思わず変な声が出そうになる。友理香は固有名詞など口にしていないのに、後ろから背中を叩かれたような、膝をカクンと折られたような、僅かな衝撃と脱力感を覚えた。
友理香はその相手が目の前にいることに、多分気付いていない。だから照れたようにはにかんで、雪哉の良いところをこうして話してくれるのだろう。
「その人の事、ずっと探してるって言ってた。もう何年も探してるらしいんだけど、見つからないんだって」
「……」
「……」
「そんな辛い恋なんか、止めちゃえばいいのにね」
押し黙った愛梨と玲子の様子を気にも留めず、友理香は恋色の溜息を洩らす。こんな美女にこんな色っぽい表情をさせて、雪哉は相当に罪な人だと思う。
それならその雪哉の『想い人』の自分は一体何なんだという話だけれど。
「友理香。人生の1年先輩として言わせてもらうけど」
「え?」
「!?」
愛梨が自分の存在に苦笑していると、頬杖をついた玲子がすっと目を細めて友理香の顔を眺めた。
もう爆発物の処理はいい!と思ったが、玲子が口にした言葉は、むしろ愛梨の心情を気遣ったものだった。