サッカーボールと先輩とアタシ
アタシの横で小さな声で言う。
「え~、マジですか!?」
「マジマジ!!」
ヒロ先輩は楽しそうに笑う。
そこは壁と校舎のL字になっているところで、風の通り道だろうか、二人の声はよく聞こえた。
「俺好きな子いるんだ。」
「…それって、彼女がいるって事ですか??」
「いや、俺が想ってるだけ。」
…何だかドキドキする。
アタシ達は壁に背中を付け並んでしゃがんでいた。
出て来る生徒がジロジロとアタシ達を見て行く。
「盗み聞きなんて、先輩悪趣味。」
小声で言う。
「違うよ、偶然聞こえたんだよ。」
にやつくヒロ先輩。
「その子は、先輩の事どう思っているんですか??」
先輩、って呼ぶ事は一年生かな。
「…どうかな。」
ヒロ先輩がアタシの顔をマジマジと見つめる。
オマエノコトダロ、声に出さず口をパクパクさせる。
アタシ??
あ…アタシの事かぁ。
「じゃ俺、部活行くから。」
旬磨先輩のその一言が合図のように、ヒロ先輩は立ち上がった。
「行くぞ。」
ヒロ先輩はアタシの手首を掴み、反対側の壁まで走った。
「振り向くなよ。」
誰かが走る足音が、学園の中へ消えた。
あの子かな。
ヒロ先輩は向きを変え、また背中を壁に付け座り込んだ。
アタシも続く。
さっきアタシ達がいた向こう側の壁には、誰もいない。