サッカーボールと先輩とアタシ
「会って、たんだ…。」
狭いエレベーターの中でボソリと呟いた先輩。
「すみません…。」
「別に謝らなくてもいい。」
こっちを見ようとはしない。
「悪い事した訳じゃないし。」
「……。」
「ただ一言伝えて欲しかった。心配したんだ。
万桜、右も左もわからない方向音痴だから。」
潤くんも、そんな事言ってた。
チンと静かな機械音がしてドアが開く。
「部屋まで送るよ。」
真直ぐな廊下を進んだら、辿り着くアタシの部屋。
大丈夫です、とは言えなかった。
心の底から、一人になりたくなかった。
「じゃあ、明日もよろしくな。」
カギを開け、中に入ろうとしたアタシに旬磨先輩はそう言った。
「先輩…。」
思わず旬磨先輩の手首を掴み部屋の中へと引っ張ってしまった。
バタン
ドアが閉まる。
「どう、した…万桜!?」
ひどく動揺しているように、そのまま先輩の身体が固まる。
繋がった手はそのまま。
アタシは旬磨先輩の胸に顔を埋めた。
ビクンと先輩の体が動く。
「どうした??アイツと…何かあったか??」
そう言いながら、そっとアタシの腰に手を回して抱き締める。
優しく、力強く、包み込む。
離れた手は、力なく居場所を失っていた。