しかくかんけい!



出会った頃から時折、彼は苦しそうな表情をするんだ。


自分を押し殺しているような、

溢れてくる何かを押さえ込むような、

そんな感じ。



そんな顔しないで、と思った。


でも、言えなかった。




だんだん人が集まって、少しざわざわする。


全部の席が埋まった頃、ソロコン開幕のアナウンスが流れると。

騒がしかった会場はしんとする。


出番はすぐにきた。

フルートを手に舞台へ現れたハナを見て、私は少し驚いた。


今週月曜日からずっと、聞き飽きるくらい「緊張するよ〜!」というセリフを繰り返していたハナ。

あんなに緊張していたはずなのに、舞台に立つ彼女は今、堂々としている。


ぺこりと一礼し、
伴奏者に目で合図して、
フルートを構えて。


静まり返った空間に、ピアノの音が響いて。


そして重なる、素朴な音。




ふと、隣の存在が動いたのを感じた。


またそらの方を、盗み見た。




瞬間、呼吸することを忘れた。







< 87 / 433 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop