SignⅡ〜銀の恋人と無限の愛を

◇来訪


橘湧人は高校二年になっていた。

颯爽と歩くその姿は、すれ違った女子の誰もが振り返るほど美形であり、まだ小学生だった五年前とはまるで雰囲気が違っている。

簡単には声をかけられない、人を寄せ付けないような孤高のオーラを身にまとい、同時に冷たさと儚さを宿したようなその表情……

滅多に笑わなくなった彼の、装った強さの裏側には、人知れず悲しみと寂しさがいつも胸に潜んでいた。


「…………」


ふと足を止めて空を見上げる。

五年前の美空同様、時折、こうして空を眺めるのが彼の癖になっていた。


穏やかな気持ちになるひと時、

同時に、苦しさを感じるそのひと時、

よぎる数々の思い出が彼の心を締めつける……



「——湧人、くん?」


ふいに現実に引き戻された。

見ると一人の男性がじっとこちらを見つめている。

清潔感の漂う、長身で眼鏡をかけたきれいな顔立ち、

男性は戸惑ったような、驚きの表情を浮かべている。


……誰だろう。


「あの、」


すると、男性はハッと我に返った。

すぐに冷静さを顔に貼り付ける。


「……ああ、すみません。聞いていた方とはだいぶイメージが違ったもので……。 初めまして、わたしは……わたしは月島一樹という者です。あなたと少し話がしたいと思いまして」


「……っ、」


聞き覚えのある名前に今度は湧人がハッとする。

困惑と不審な顔で一樹を見つめた。
< 2 / 295 >

この作品をシェア

pagetop